ゴリラの今日の一言
深夜の暴音爆走野郎を私は絶対に許さない。
何回周回するつもりなんだ、ここはサーキットじゃねぇぞ。
今日は始発に乗る予定なのに。
マニュ子は寝つきが恐ろしく悪いのだ。
お前なんか芋虫にしてやる。
マニュ子と魔女
お祖母ちゃんじゃなくて、知り合いのおばあさんの思い出だけど。
幼稚園~小学校中学年位まで、マニュ子は幼稚園で所有者のおばあさんがやっていた英会話塾に通っていた。
おばあさんは、幼稚園の敷地内の森に住居を構えていて、そこで少人数の子供を招いて、レッスンをしていた。
うっすらとしか憶えていないけれど、カエルが主人公で、お医者さんがライオンで、そんな内容のテキストでお勉強していたわ。
早生まれなせいか、覚えの悪かった私はあんまりお勉強の時間が好きじゃなかったわ。
テキストを読んだり、英語で知っている童謡を歌ったりするの。
でも、お勉強のあとのおやつの時間はすごく好きだったの。
アルファベットのビスケット、甘ったるいオレンジジュース、毒々しい色合いのグミ。
スリットの入ったような高い鼻、栗色の巻き毛、ヘーゼルグリーンの瞳。
異邦人を見慣れていなかった私は、内心彼女が魔女なんじゃないかと思っていた。
絵本の悪い魔女みたいな容姿なのに怖くなくて、優しくて甘い匂いのする人だった。
レッスンはいつも休日に行われていたわ。
休日の幼稚園は無人で、異質な雰囲気を湛えていた。
ガラス張りの講堂の中に佇む聖母像がなんだか怖かったのを憶えている。
幼稚園の庭、ちょっとした森を通り抜けると先生の家にたどり着く。
XXX先生の家の玄関は、先生のお手製のステンドグラスが吊るされていて、薄暗いけれど、差し込む光がとってもキラキラしていた。
いつも、迎えてくれた先生が抱きしめてくれて、甘い匂いを嗅ぐのが好きだった。
XXX先生。フルネームはそもそも知らない。
マニュ子が小学中学年になったころ、先生は親戚に会いに祖国へ帰国した。
あくまでも一時的な帰国の予定だった。
すぐに帰ってくると思っていた。
XXX先生のレッスンはそれっきりになってしまった。
その頃、世界的に有名な感染症がニュースを賑わせていた。
確かSARSだったと思う。
先生は感染のリスクを考慮して、日本への帰国を見合わせていたらしい。
結局、魔女が海の向こうから帰ってくることはなかった。
エメラルドグリーンのロッキングベンチで有名だった幼稚園。
今も森には魔女の棲家が残っている。
幼稚園は入園児童が減ってきて、近々取り壊される予定らしい。